ワールドディ・北海道フォーラム(1120日)60人集う

テーマは「ゾーン30」と「歩車分離信号」

2016年11月20日(日) かでる2・7 520研修室 
 
 当会主催の「世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム2016」は、11月20日、札幌市中央区の「かでる2・7」を会場に、今年も60人を超える参加者が集い、意義あるフォーラムにすることができました。
 詳細は2017年1月発行の会報52号にて報告しますが、以下概要です。


 17回目となる今フォーラム(11月第3日曜日の「ワールドディ」での開催は2009年以来8回目)は、北海道、北海道警察、札幌市の後援、および、「世界道路交通被害者の日・日本フォーラム(ワールドデイ・ジャパン)準備会)」、クルマ社会を問い直す会、交通権学会北海道部会、道は誰のもの?札幌21、道路を考える会、スローライフ交通教育の会、の協力で開催されました。

 主催者挨拶(前田)では、最初に11月19日夜東京タワーを前にワールドディ日本フォーラム(準備会)などが主催して行われたキャンドルナイトの様子を映し出し(写真)、全国の取り組みと連帯したフォーラムであることを報告。さらに、今年のフォーラムのテーマを「ゾーン30」と「歩車分離信号」に設定した経緯などが述べられました。

第1部【ゼロへの願い】

 第1部、「ゼロへの願い〜こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにしてください〜」では、いずれも、青信号の交差点を渡って、右左折の加害車両に巻き込まれた被害ご家族の3人がメッセージ。いずれも「信号が歩車分離信号であれば、このような悲劇は無かった」と訴え、第2部の長谷さんの特別講演につなぎました。

 札幌市の眞下登志子さんからは、手記「小学6年だった娘は、14年前、青信号で横断中に危険運転の右折トラックに轢かれ、その全てを奪われました」が寄せられ、佐藤茜莉さん(高校生、兄を亡くしています)が心を込めて代読しました。

 江別市の竹橋 信良さんは、「息子は、青信号横断中に前方不注視の右折車に轢かれ(当時30歳)、遷遠性意識障害となり、7年を経た今も入院中です」と題して、今もベッド生活を余儀なくされている息子さんの介護生活など語り、「悲惨な交通事故で、どれほど被害者や家族が苦しむかを、国民一人ひとりが理解を深め、クルマ優先社会から人間優先社会へ根底を変える網羅的な取り組みが求められている。本日のテーマ、『ゾーン30』と『歩車分離信号』の早急の整備が、当面の重要課題ではないでしょうか。」と強調しました。

 
 そして、新ひだか町の五十嵐 敏明さんは、「兄と姉は、青信号横断中に(兄はH15年左折車に、当時77歳。姉はH25年右折車に、当時81歳)轢かれ非業の死。無念でなりません」と題して、お兄さんお姉さんお二人を青信号の交差点巻き込み事故で喪った無念を語り、地域での再発防止の取り組みを報告。「人が主役の社会です。安心して歩行できる安全な施策を、皆でつくり出して行くことが、今求められていると思います」と結びました。
                          
第2部【ゼロへの提言】

 第2部の「ゼロへの提言」では、はじめに東京都八王子市在住の長谷智喜さんが「歩車分離信号の経緯と課題」と題して特別講演。
 長谷さんは2001年にも当会主催の講演会で講演されておりますが、1992年、当時11歳の長男元喜さんを青信号の交差点で左折ダンプに奪われ、「信号はなぜあるのか」という亡き元喜さんの「問い」に答えるため、歩車分離信号を提唱し、その普及に全力を傾けて来られました。
 講演では、「青信号の対人巻き込み事故は、ルールを守る横断者を一方的に理不尽に殺傷する交通事故であり、人と車を同じ青信号で交錯させる当然の現象=「構造死」である。横断者の命を不確実な人間の注意力に委ねる為に、全国で毎年15000件以上起きているが、交差点の信号運用の改善で撲滅できる事故である」と強調し、「行政も私たちも、こうした交差点の危険性と歩車分離信号の有益性を理解・広報し、車効率優先からの脱却をしていかなければならない。通学路や危険度の高い交差点から順次改善し、この北海道を人命優先の地として『歩車分離信号』全国一位を目指して発信して欲しい」と結びました。

 第2部後半は、前田代表が 「今こそ、ゾーン30と歩車分離信号の本格実施を」と題して「ゾーン30」を中心に提言。
 私たちが本フォーラムでの討議を重ねて求めてきた交通死傷ゼロのための重要施策の一つである「ゾーン30」が、警察庁所管の報告書(「生活道路におけるゾーン対策推進調査研究報告書」2011年3月)と局長通達(「ゾーン30の推進について」2011年9月)によって実施に移され、2016年3月には、「第10次交通安全基本計画」にも文言としても明記されたこと、3年前から道内でも整備が進む(2015年までに道内71箇所)中、官民の努力で、本格推進が求められていること、などが述べられました。

第3部【ゼロへの誓い】

 第3部では、道環境生活部のくらし安全推進課、中野稔課長と道警本部交通部の坂本則夫管理官が、それぞれ、「尊い命を奪われた方、今も後遺症で苦しんでおられる方、そのご家族の方に思いをはせて、交通事故を無くすため、全力で取り組んでいきたい」(中野課長)、「関係機関・団体と連携し、広報啓発活動を推進し、交通環境の整備と交通事故抑止に取り組みたい」(坂本管理官)と、決意の挨拶を行いました。
 最後に、いのちのパネル展実行委員長の小野さんが「子どもの笑顔を守っていくのは私たち大人の責任。力を合わせて、交通被害のない社会をめざしていきたい」と閉会挨拶をしてフォーラムを閉じました。


       「北海道新聞」2016年11月21日

以下は、2013年以来、フォーラムで提案・採択されている「交通死傷ゼロへの提言です」。
今年も会場で確認されました。

交通死傷ゼロへの提言
2016年11月20日
世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム


 近代産業社会がモータリゼーションとともに進行する中で、人々の行動範囲は飛躍的に拡がり、欲しいものがより早く手に入る時代となりました。しかし、この利便性を享受する影で、「豊かさ」の代名詞であるクルマがもたらす死傷被害は深刻で、命の重さと真の豊かさとは何かという問いが突きつけられています。
 わが国において2014年に生命・身体に被害を受けた犯罪被害者数は81万9266人ですが、このうち何と96%(78万5867人)は道路交通の死傷(死亡者数6,060人※厚生統計)です。この「日常化された大虐殺」ともいうべき深刻な事態に、被害者・遺族は「こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにして欲しい」と必死の訴えを続けています。人間が作り出した本来「道具」であるべきクルマが、結果として「凶器」のように使われている異常性は即刻改められなければなりません。このような背景から、国連は11月の第3日曜日を「World Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通被害者の日)」と定め警鐘を鳴らしています。
 「交通死傷ゼロへの提言」をテーマに本年も集った私たちは、未だ続く「事故という名の殺傷」を根絶し、「日常化された大虐殺」という言葉を過去のものとするために、以下の諸点を中心に、わが国の交通安全施策の根本的転換を求めます。

第1 交通死傷被害ゼロを明記した目標計画とすること
 憲法が第13条で定めているように、人命の尊重は第一義の課題です。平成28年3月策定の「第10次交通安全基本計画」の基本理念には「究極的には交通事故のない社会を目指すべきである」とされていますが、「究極的には」でなく、中期目標としてゼロの実現を明記し、政策の基本に据えるべきです。
 減らせば良いではなく、根絶するにはどうするかという観点から、刑法や道路交通法など法制度、道路のつくり、対歩行者を重視した車両の安全性確立、運転免許制度、交通教育など関係施策の抜本的改善を求めます。自動車運転処罰法も、人の死傷という結果の重大性に見合う内容へと運用も含めさらに見直しが必要です。
 私たちのこの主張は、単なる理想論ではありません。現に、スウェーデンでは、交通事故で死亡もしくは重症の外傷を負うことを根絶するという国家目標を「ヴィジョン・ゼロ」という名のもとに国会決議として採択しています(1997年)。そして、この目標を達成するための方法論と、その科学的根拠を示しています。

第2 クルマの抜本的速度抑制と規制を基本とすること
これまでの長い苦難の歴史から私たちが学んだ教訓は、利便性、効率性、そしてスピードという価値を優先して追求してきた「高速文明」への幻想が、人々の理性を麻痺させ、真の豊かさとは相容れない危険な社会を形成してきたということです。安全と速度の逆相関関係は明白です。持続可能な共生の交通社会を創るための施策の基本に速度の抜本的抑制を据えるべきです。
 クルマが決して危険な速度で走行することがないように、今まで以上に踏み込んだ新たな規制が急務です。クルマ自体には、段階ごとに設定された規制速度を超えられない制御装置(段階別速度リミッター)や、航空機のフライトレコーダーに相当するドライブレコーダーの装着を義務化し、速度と安全操作の管理を徹底するべきです。さらに、ISA(Intelligent Speed Adaptation 高度速度制御システム)の実用化を急ぎ、二重三重の安全装置を施すべきです。
「自動運転」の技術開発が、今後も多数存在するであろう「非自動運転車」の危険速度走行を免罪することになってはなりません。今あるクルマの速度規制こそが急がれます。

第3 生活道路における歩行者優先と交通静穏化を徹底すること
 道路上の子どもや高齢者の安全を守りきることは社会の責務です。人口当たりの歩行者の被害死が諸外国との比較において極めて高いのが現状であり、歩行者を守るためにまず取り組むべき課題は、生活道路における歩行者優先と交通静穏化(クルマの速度抑制)です。
 道路や通りは住民らの交流機能を併せ持つ生活空間であり、決してクルマだけのものではありません。子どもや高齢者が歩き自転車が通行する中を、ハードなクルマが危険速度で疾駆する日常は、その根本から変えなくてはなりません。幹線道路以外のすべての生活道路は、通行の優先権を完全に歩行者に与え、クルマの速度は少なくても30キロ以下に一律規制(「ゾーン30」など)し、さらに必要に応じて道路のつくりに工夫を加えて、クルマの低速走行を実現しなくてはなりません。これが欧州の常識であり、ドイツやオランダの都市では、完全に実施されています。このような交通静穏化は歩行者優先の理念の「学び直し」の第一歩であり、ひいては幹線道路の交差点における死傷被害の抑止に結びつくはずです。横断歩道のあるすべての交差点を歩車分離信号にすることも重要課題です。
 同時に、財源措置を伴う公共交通機関の整備を進め、自転車の更なる活用と安全な走行帯確保を緊急課題と位置づけるなら、道路の交流機能は回復し、コンパクトな街並みは活気を取り戻すでしょう。
 私たちは、交通事故による死傷をゼロにしたいと願っています。しかし、それだけではなく、現行の交通システムをより安全なシステムに改善することは、交通事故の被害者だけにかかわらず、もっと普遍的な市民や住民の生活の質をも豊かにすること、それはすべての市民の基本的人権の保障につながるということを主張しているのです。